軽井沢のアンティーク雑貨・家具ショップのベルリネッタ軽井沢です。
当店ではヨーロッパを中心に直輸入したアンティーク家具や食器・雑貨等を取り扱っております。こちらのブログでは、御来店いただくお客さまによりお買い物を楽しんでいただけるよう【アンティーク入門】と題した記事を連載しています。
先日の記事では >>>【アンティーク入門:Vol.5】丸いお皿が多いのはなぜか?陶器のできるまで についてご案内しました。
アンティーク食器がお好きな方は、優雅で美しい図柄や金の加飾に惹かれていらっしゃる方も多いのでは。
今回は、陶器ができた後の「画付け」と言われる加飾の方法について詳しくご案内します。
画付けの方法は大まかに言うと「ハンドペイント」と「転写紙」の2つに分けられます。
素描(すがき)絵付け ハンドペイント
一般的に手描きと言われ、日本画や洋画を描くように、直接陶器に画を描く手法です。
アンティーク食器に多く見られ、同じ図案でも筆のタッチが残っていたり、人物の顔の表情に違いがあったり、良い意味で個体差があります。国によって描き方がおおらかであったり、精密であったり違いがあるのも面白さの一つです。
画付けの最後は金仕上げ。本物の金が施された陶磁器はとても優雅に感じられますよね。異型物に金を筆で施すのは熟練の職人でないとなかなか出来ない技です。
ちなみに、かのフランスの有名な画家・ルノアールはハンドペイントの絵付け師でしたが、この後にご紹介する「転写紙」の登場によって仕事がなくなり、画家になったのは有名な話。
転写紙
転写紙とは、簡単に説明すると、陶器用のシールのようなもの。シールといっても陶器用の絵の具でできており、800度以上の高温で焼き付けることで陶器に定着します。
I-転写紙はどうやって作られる?
主としてシルクスクリーン印刷※で製造されます。シルクスクリーン印刷といえば、アンディーウォーホルが有名ですよね。
シルクスクリーンで使われるメッシュの荒さにより絵の具の厚さが決まります。絵によって一概には言えませんが、予想外に多くの色が使われています。
一般の印刷物のカラー印刷は黄赤青黒の4色刷りなのですが、陶磁器の絵の具は焼成をして発色をする絵の具なので、重ね合わせると化学反応をおこして本来の色が出ません。
刷り重ねがきかないので8つの色で描かれた絵柄なら8色刷り、10の色で描かれた絵柄なら10色刷りになります。
また、ブルー等単色に見える模様にも濃・中・淡と何色もの色が使われていて、7〜15刷りというのが普通ですが、絵柄によっては25色刷りというものもあります。
これほどの多色をズレや狂いもなく印刷をして転写紙をつくるのは、大変な苦労だということがわかりますよね。
さらに詳しくご説明すると......転写紙にはよく水を吸う性質の紙が用いられ、その上に特殊なノリが塗られています。
絵柄はこのごく薄いノリの膜の上に印刷され、印刷された絵の具は「カバーコート」と呼ばれるビニールで上面と周りをピッタリと覆われます。こうして完成した転写紙を水に浸すと、ノリの層が溶け、紙の部分と、カバーコート+絵の具の層が分離する.......という仕組み。この、カバーコート+絵の具の層を磁器肌に貼付し、焼き付けるのです。
ご想像の通り、人の手で画付けをするよりも転写紙の方が人件費が抑えられ、一度に大量の商品生産が可能になりコストが下げられます。
※シルクスクリーンよりも古い印刷方法としては、防腐剤を塗った銅板上に画柄を彫刻し凹版をつくる凹版印刷が挙げられます。
他にも、主に下絵として素焼素地に貼付ける銅板転写や、石版石・亜鉛板・アルミ板などを用いた平版印刷等もあります。
アンティーク物の転写紙技術にはこれらの古い手法が使われている物も一部あります。
Q、ポット等の曲面には転写紙を貼るのは難しそうですが、全面に柄や色がついているものはどのように画付けをされるのでしょうか。
曲面の画付けには、2つの方法があります。
①吹き画付
スプレーガンを用いて絵具を吹きつけ彩色する手法で。下絵にも上絵にも応用される装飾方法です。広い面積や曲面にムラなく色をつける場合に用います。
②塗り画付
水または油で溶いた絵具を刷毛(はけ)で素地に塗る手法です。漆を塗った面に粉末の絵の具を蒔く蒔絵手法もあります。大倉陶園の色ボーダーはこの手法です。
Q、レリーフのような渕金文様はどうやって作られているのでしょうか?
こちらも2つの方法があります。
①金腐(きんくさらし)
白素地をフッ化水素にさらして釉薬面を腐食させ模様を浮き立たせる技法。
②サンドブラスト画付
微細な砥粒を吹き付けて表面を削り、凸凹模様をつけます。
アンティーク物の多くは金腐(きんくさらし)の手法がとられていますが、現在では作業に劇薬を使う金腐(きんくさらし)から安全なサンドブラスト画付に代わっています。
一見同じように見えますが、金腐(きんくさらし)の方が腐食された模様の面に趣きがあるように感じられます。
いかがでしたでしょうか。
陶器がどのように加飾されているか、イメージが湧いたのではないでしょうか。
画付けの前の陶器のできるまでについて詳しく解説した
>>>【アンティーク入門:Vol.5】丸いお皿が多いのはなぜか?陶器のできるまで
もぜひ、合わせてご覧ください。陶器の成形方法や画付けにも歴史的変遷やそれに伴う技術の進化がみられます。
ベルリネッタ軽井沢ではミントン、マイセン、セーブル、ロイヤルコペンハーゲン、ウエッジウッドなどヨーロッパ各国、ノリタケなど国内のアンティーク陶器を取り扱っております。
その製陶方法や画付けの違いもご覧いただきながら、お買い物を楽しんでくださいね。
記事監修・作図:齋藤秀雄
元(株)ノリタケカンパニーリミテド デザイナー
参考文献:器物語 ノリタケ食文化研究会編 中日新聞社
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